
今回は獅子心王「リチャード1世」とイスラームの英雄「サラディン」の戦い
第三回(三次)十字軍について綴っていきます。
事の発端
聖地エルサレムを奪還しようと立ち上がった「十字軍」。第一回十字軍が成功し、エルサレムはキリスト教徒の手に渡った。
だが、年月が経ち、第一回十字軍で活躍した英傑達はもう既に亡く、異国の地で必死にエルサレムを守っていた十字軍国家。
其処に、十字軍を倒すべく現れたイスラム側の英雄が「サラディン」
1187年にサラディンは見事な指揮で十字軍国家を打ち破り、エルサレムを奪還した。(サラディンは第一回十字軍が行った様な虐殺をせず、寛容な態度でキリスト教徒からエルサレムを奪還した)
その報を聞いたローマ教皇は焦って、聖地奪還のために新たな十字軍の派遣を呼び掛けた。これが第三回十字軍だ。
フランス、イギリス、神聖ローマ帝国などから諸侯は集まり、エルサレムに軍を進めた。
中でも神聖ローマ帝国の皇帝フリードリヒ一世は自ら万単位の兵を率いて、エルサレムに向かい、大軍を持って敵を打ち破る成果を挙げたものの、
行軍途中で溺死する
これからっていう時になにしてんねん?!
こうして第三回十字軍は主にイギリス、フランスのみで行わなければならなくなった。
フランスの王フィリップはまだ若く、頼りがない。
では、この“第三回十字軍”を指揮して、名将サラディンに立ち向かった男は誰か?
これが今回のもう一人の主人公、イギリス王「リチャード一世」
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ここに、生涯のほとんどを戦に捧げた獅子心王「リチャード一世」とエルサレムを奪還したシリアの稲妻「サラディン」
二人の名将の戦いが始まる。
アッコン陥落
1191年
十字軍達は先ずアッコンを攻めた。リチャード一世率いるイギリス軍は正に獅子奮迅の働きでアッコンを落とした。わずか3ヶ月。
「旗を掲げろ」
靡いたのはイギリス王家の御旗。アッコンは占領された。
リチャードは他の諸侯の言う事も聞かず、ただ只管、我を通した。
「捕虜は身代金を得られなければ、皆殺しにする」
リチャードという、まだ30前後の王は味方に対しては母親の様な包容力を持ちながらも、敵に対しては、ほんの僅かな情すらも抱かなかった。
その苛烈さ、正に獅子。
フィリップ帰る
「なんだあの男は」
若きフランス王フィリップの気持ちは複雑だった。リチャードに対しての憤怒、そして畏敬____
…とても敵わない
リチャードとフィリップでは立つ土台が違った。フィリップはアッコンを去り、本国フランスに帰った。
こうしてリチャードは残った第三次十字軍を全て率いる事になった。
そして、先に進むにはある男を倒さなければならなかった。十字軍はその名前を聞いただけで震え上がった。
イスラムの英雄「サラディン」だ。
獅子と稲妻
「サラディン」
ムスリムにとってこの男ほど頼もしい者はいなかった。異教徒を打ち倒すのはこの男しかいないと心からムスリム達は思った。
「まず、アッコンにいる捕虜を助けたい」
サラディンは弟を向かわせ、捕虜の延命を懇願した。が、リチャードは許さなかった。
リチャードはイスラム教徒の捕虜、2700人を皆殺しにした。
「なんと、非道い」
この様な虐殺をサラディンはした事はなかった。
アッコン陥落から翌月
「まず、周りの拠点を落としてからエルサレムに向かう」
リチャード率いる十字軍はヤッファに向かった。
「来い、その首を取ってやる」
アルスフの戦い
- アルスフの戦い
リチャードとサラディンの戦いが始まった。
サラディン率いるムスリムの兵士は森の茂みに隠れて行軍中のリチャード率いる十字軍を何度も襲った。
敵を深く誘き出して殲滅する。サラディンの策であった。
「小賢しい!」
十字軍の兵士たちは何度も反撃をしようとした。
が、リチャードは兵士たちを諫めた。
「反撃はしてはならぬ、決して釣られるな」
後方部隊に攻め込んできたムスリムの兵士達!
「いまだ!反転しろ!」
敵を充分に引き付けてから十字軍は突撃した!不意を突き敵兵を打ち破ったのだ。
「もう良い、深追いをするな」
リチャードはすぐさま兵を引き上げた。
森の中に入っていたら、それこそムスリムの餌食だった。この引き際の良さ、サラディンも舌を巻いた。
第三回十字軍の終わり
翌年1192年にリチャードはエルサレムに兵を向けたがサラディンの守りは硬く、困難を極めていた。
そんな中____リチャードにある知らせが届く。
「弟君ジョンがフランス王フィリップと共謀して本国を狙っている」という報告だ。
(弟よ、馬鹿か)
眼前にそびえるエルサレムを前にリチャードは嘆いた。あと一歩、という所で帰らざるを得なくなってしまった。
リチャードは講和を申し出た。
サラディンはそれを許し、「武装していないキリスト教徒の巡礼」を許可した。何という懐の大きさ。
こうして休戦協定が結ばれ、リチャードはヨーロッパに帰った。
二人の英雄が戦った第三回十字軍は終了した。
その後二十六年間この講和は保たれた。
総評
二人はお互いを高く評価していた。
サラディンとリチャードは互いをこう評している。
「王としての力量、勇気は人類の歴史でも稀」
「間違いなく最も強力かつ偉大なサラセンの指導者」
違う「正義」を持ちながら、認めていた「好敵手」と言えるでしょう!